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国立がん研究センターが、政治組織と誤解されるのも時間の問題。「たばこ政策支援部」の勢い止まらず。

国立がん研究センター中央病院
国立がん研究センター中央病院  出典:Wikimedia Commons)

タバコを日常生活から消し去ることを目標にする「タバコ政策支援部」

「軒先を貸して母屋を取られる」という言葉の意味について、そろそろ国立がん研究センターは考えるべき時期が近づいているのかもしれません。研究機関を謳うがんセンターは、研究ではなく特定の政策誘導や政治を行うための組織に変貌したというイメージが国民の中で徐々に膨らみつつあるのではないでしょうか。先日、世界禁煙デーというイベントに合わせ「国立がん研究センター・がん対策情報センター・タバコ政策支援部」は、たばこを日常風景自体から消し去るという泣く子も黙る「日本禁煙学会」同様の目標を掲げ、賛成か反対かという2択のポピュリズムに訴えかける手段に出てきました。

世界禁煙デー」の31日、国立がん研究センターは、コンビニエンスストアなどでの、たばこの陳列販売に関するアンケート調査結果を公表した。たばこの陳列販売禁止について成人の55.5%が賛成したほか、自動販売機の設置禁止に68.3%が肯定的だった。2020年東京五輪パラリンピックを控え、世界的潮流から遅れている日本のたばこ規制を指摘するのが狙いだ。(日本経済新聞電子版 2017/5/31 21:29より)

ちなみにそのアンケート結果のプレゼン資料はこんなものです。

http://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/pdf/press_release_20170531_tobacco02.pdf

エロ本の陳列より、タバコの陳列の方が有害?

たばこの陳列やたばこの自動販売機を目にすることがあるかというアンケートならわかります。しかし、こうした風景が喫煙に対しどのような影響を及ぼしているのかという研究そっちのけで、国民に対し、いきなり反対か、賛成かという問いを行っています。さらに、散々タバコの質問をやった挙句、成人向け雑誌(要は「エロ本」)の陳列とタバコの陳列のどちらが問題かというような誘導的手法を用いて、結果として、エロ本の陳列よりも、たばこの陳列の方が悪いという結論が出たと堂々と公表。ここまでくると研究というよりは本当の笑いさえ湧き上がってくるのですが、一体全体、この研究機関は何をやろうとしているのかという疑問というか、知的興味が私の中に起こってきました。そして、WEBで「国立がん研究センター・がん対策情報センター・タバコ政策支援部」の組織目的を拝見し、ようやく事の次第がわかりました。

科学研究にあらず。特定政策を実現することが第一義(タバコ政策支援部)

たばこ政策支援部では、国際水準でのたばこ政策をわが国において推進するため、たばこ政策にかかる各種の研究と提言を行い、「たばこ」から健康を守る社会を目指します。国内においては、「がん対策基本法」及び「健康増進法」、国際的には「たばこ規制枠組条約」を法的根拠としています。たばこ政策支援部 << 国立がん研究センターがん対策情報センター

国際水準でのたばこ政策をわが国において推進することが第一義なのであり、そのための研究であるということが明確に謳われています。国際水準のたばこ政策とは、要はWHOや世界銀行たばこ規制枠組条約に代表される独善的、貴族的、並びに偽善的かつ差別的性格を帯びた政策*1なのですが、それはさておき、この特定政策への誘導のための研究目的で存在するたばこ政策支援部が、外形的には政治的に中立な組織に見える国立がん研究センターの内部に置かれていることは、国民に正しい情報を伝える上で非常に大きな問題をもっていると思います。いやもっと言うならば、特定の思想信条に基づく人たちが、国民を意図的にミスリードしているように私には思われてなりません。

常勤4人(非常勤を合わせ7人)の考えが国立がん研究センター全体の意思に 

国立がん研究センターは、巨大な組織で、医学の研究を行う「研究所」、医療技術の開発を行う「センター医療開発センター」、臨床を行う2つの病院(「中央病院」と「東病院」)など合わせて9つの組織を抱え、人員は1000人を超える巨艦組織です(厚生労働省の所管独立行政法人及び特殊法人の役職員の給与水準等(平成27年度分)より)。そして、「タバコ政策支援部」は、9つの組織の一つである「がん対策情報センター」の中の7つの部のうちの1つです。タバコ政策支援部は常勤は4人、非常勤を合わせてもわずか7人にすぎません。しかしながら、このわずか4人(7人)の意思が、メディアの報道では、「国立がん研究センターは」という接頭語が付きで、がんセンターの医師、研究者全体が賛成しかつ科学的意見であるかのように伝えられています。しかも、前述の通り、彼らは科学的研究ではなく、国際水準でのたばこ政策をわが国において推進するための研究という政策目標のための研究を行っているのです。本当は次のような接頭語を添えて伝えるべきです。「国立がん研究センター内で、タバコ枠組み条約の国内規制法制定という厚生労働省の目標を実現するために働く4人(うち1名は経営コンサルタント)は・・・・・。」。

公衆衛生部門ののリストラと受動喫煙について

たばこ政策支援部の中心となっている医学分野はは「公衆衛生(疫学)」です。実は、この公衆衛生部門は、最近の行政改革においてリストラの対象なっています。平成21年の民主党政権時に「国立保健医療科学院」が事業仕分けの対象となり、平成23年に人員の削減、組織の再編成が行われています。大阪では、今年の4月に、大阪府立公衆衛生研究所と大阪市立環境科学研究所の組織統合がなされ、施設を一か所に集約することが日本維新の会の主導の下で決定されています。

大阪府市衛生研、施設を1カ所に集約へ - 産経WEST

水俣病に代表される公害の時代は終わり、国民の衛生環境が向上した中で公衆衛生の研究規模や、公的な検査体制が縮小していくのはある意味避けられないところです。公衆衛生の内容、研究対象を変えていかなければ、研究者の食い扶持が次第に狭まっていくという現実が続いています。そういった背景の中、国立がん研究センターに公衆衛生の研究者が入り込み、WHOなどの国際機関の支援もあって受動喫煙やたばこの販売を問題として俎上にあげていきます。「公衆衛生ムラ」は、たばこを公衆衛生分野の新しい市場とすることで、研究者や組織の生き残りを図り、また厚生労働省は省益の拡大を目論んでいるというのは私の穿った見方でしょうか。

オプシーボ(がん治療薬)の登場

ここ数年で、癌治療において新しい分野「免疫療法」が切り拓かれましたました。小野薬品工業のオプシーボの発売です。森前首相がオプシーボによってがんを克服したことは有名ですが、巨額の国費を投じ、がん専門の研究センターとうたった国立がん研究センターからこうした薬、治療法が開発されてこなかったのが非常に残念です。予防医療などに関わっているからこんなことになるんだという悪口も言いたいところですが、まさに画期的なアプローチであり、手術の難しい肺がんなどにドンピシャの治療方法です。国立がん研究センターは、後発ながらこの分野の研究に力を入れてほしいと思います。理事長の堀田知光さんもこのように言っています。

オプジーボは従来の化学療法や放射線と同じ判定基準で有効性を見ることができるようになった。今までの免疫療法とは全く異なり、同じ物差しで語ることはできない。また薬が効くメカニズムとして、(がん細胞が免疫を抑える機能を解除し、腫瘍をたたく)『免疫チェックポイント阻害』という科学的根拠もある。ただ全ての患者に効くわけではなく、およそ3割とされる。なぜかはよく分からない。メカニズムをもっと突き詰め、洗練していく必要がある」

「免疫療法は次のブレークスルー(突破口)になるといえる。国立がん研究センターも次は免疫療法を強化していく必要があると考えている。これまで得意ではなかったので、外部から人材を集めて研究開発を進めたい。ヒトの遺伝情報を調べてこの人には効きそうだ、副作用が少なくて済みそうだと予測する『ゲノム医療』にこれまで力を入れてきたが、それとは別の研究上の横串になる」 

’(2016/1/11 2:00日本経済新聞 電子版)

しかしながら、国立がん研究センターのオプシーボ研究についての発信力は残念ながらほとんどありません。傍流としか私には思えない「タバコ政策支援部」の4人のたばこ廃絶の発信力に完敗し、国立がん研究センターはタバコばかりやっているんだななあというのが国民の実感ではないでしょうか。国民の知る権利に奉仕するメディア関係者は、自民党ネガティブキャンペーン都民ファーストの会の押しに受動喫煙を利用するのではなく、癌治療における本質をついた報道を量の面からも、質の面からも確保してほしいものです。

タバコ推進室は厚生労働省が引き取ってほしい。

国立がん研究センターは、臨床部門を持つ、癌の科学的な研究機関です。当然、国民の税金もこうした趣旨の下で投じられています。なぜ、国際水準でのたばこ政策をわが国において推進するための部門が国立がん研究センター内に置かれ、目的に沿わない予算が消化されているのでしょうか。政策誘導は研究機関の立場と完全に矛盾します。条約に対応した国内法を整備するための研究をするのであれば、科学研究機関ではなく行政機関たる厚生労働省の中に作ってください。第三者的な研究機関を装った情報による国民への政策誘導は一日も早くやめてほしいと思います。

厚生労働省は、信念があるならば、正々堂々と自分の立場を明らかにし、タバコ政策支援部を国立がんセンターから引き取り、タバコ枠組み条約の問題は、政治プロセスの中で正々堂々と解決を図るべきだと思います。目的のためには手段を択ばない手法は、日本の民主主義を毀損させます。まあ、官僚ってのは、独善的でみんなこんな感じなんだけどねえ。

*1:イギリスやフランスのパブやカフェに行けば、労働者たちがタバコをプカプカしているのはわかるでしょう。また、こうした国際機関は、喫煙者を採用しない企業の方針を差別と非難するどころか、むしろ評価しています。