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妥協なき受動喫煙対策を推進する人々に統治能力はあるのだろうか?塩崎恭久の退場。戦いは都議会へ。

Building of Tokyo Metropolitan Assembly 2 7 Desember 2003
東京都議会議事堂(出典:Wikimedia Commons)

内閣改造、塩崎厚生労働大臣は退任へ 

8月3日に行われた内閣の改造人事において、塩崎恭久厚生大臣の名前はなく、退任、交代となりました。東京オリンピック対応としての受動喫煙法制化に向けた政治プロセスを見ながら、安倍首相は必ず交代させるだろうなあとは思っていましたが、流石でした。2012年12月の内閣総理大臣就任から5年8か月もの長期政権を続けていることにはやはり根拠があります。内閣改造後の支持率(8月3日、8月4日)は、共同通信社の調査によると44.4%。前回から8.6ポイント上昇。支持率低下の原因は安倍首相個人の問題というよりは、不祥事を連発したり、能力に疑問符が付いた自民党議員、閣僚にあったとうのが正しかったのでしょう。

法案をまとめられなかった塩崎大臣の力量不足

さて、受動喫煙の法制化プロセスに戻ります。傍目から見ますと、中小零細の飲食店の事情を汲み取らない上から目線の厚生労働省案は、どう考えても成立が難しいように思われました。居酒屋やラーメン屋などの飲食店では、喫煙が原則禁止(喫煙室を設ければ可能)となっていたからです。これに対して自民党案は、業態による分類はせず、「飲食店」とまとめた上で、一定の面積以下については表示すれば、喫煙を認めるというゆるやかなものでした。まあ、いずれの案も医療施設や公共施設(学校、役所)では原則禁煙となっており、オリンピック対応ということであれば、自民党案でも十分事足りる内容だったのです。しかしながら、塩崎大臣は一切妥協をせず、一歩でも前に進める漸進主義を認めず、結局法案の国会提出自体をおじゃんにするという顛末。事の次第は産経新聞の記事が非常にわかりやすかったのでご紹介いたします。 

厚労省案に比べ規制が緩んだ形となったが、規制強化を訴えていた党受動喫煙防止議連の山東昭子会長らも譲歩し、自民党案を受け入れた。現状より受動喫煙の実態が改善に向かうことを優先したからだった。規制推進派から事前に理解を取り付けた以上、塩崎氏もすんなり自民党案をのむだろう-。自民党の厚労部会関係者らがそう踏む中、茂木、塩崎両氏による「トップ会談」が5月24日、都内で行われた。しかし、予想に反して塩崎氏の回答は「厚労省案じゃないとダメだ」の一点張りだった。同席した田村氏は渡嘉敷氏に電話をかけ、「決裂した。塩崎氏は1ミリも寄ってこなかった」と伝達。翌25日に厚労部会を開く予定でいた渡嘉敷氏は周囲にこうつぶやいた。「異常事態だ。まさかの大臣の抵抗だ」

(中略)

こうした塩崎氏の態度は安倍晋三首相の耳にも届いていた。首相は5月23日、衆院本会議場の自席で、茂木、田村、渡嘉敷の3氏を前に、首相の隣の塩崎氏の机をさすりながら「問題はこの人だね。任せるから今国会での成立をよろしく」と励ました。しかし、塩崎氏が今月1日に田村氏に提示した妥協案は、実施までの猶予期間を延ばすものの、内容は厚労省案のままだった。

 政調幹部は「党側がのめない妥協案をこの時期に出すのは、厚労省も汗をかいていることを示すアリバイ作りでしかない」と憤る。この法案をめぐって、党と塩崎氏の信頼関係は完全に崩壊した。法案を提出し、成立させるには「まず人事で関係者を変えて協議し直すしか手立てがないかもしれない」(閣僚経験者)と指摘する声もある。

 (2017年6月6日 産経新聞電子版)

少し補足すれば、茂木、田村、渡嘉敷さんといった自民党政務調査会のメンバーは、党内を取りまとめる中立的な立場から動いていました。反対派では決してなかったのです。

私は産経新聞の記事を見た際に、この記事は正確な報道をしているなと直感的に感じました。何しろ、第一次安倍内閣において、小池百合子東京都知事(当時は防衛大臣)に嫉妬し、用もないの当時の大統領補佐官に「カウンターパートは私だ」と電話を入れているような方です。さもありなんという感じでした。法案化が崩壊していく政治プロセスを見ながら、ああこの人はあの当時から何も成長していないなあ。安倍さんも大変だなあと思いました。意見をまとめていくには妥協も必要だし、反対する側からもこの人が言うなら仕方がないというような人格も必要です。いわゆる統治能力ってやつが必要なのです。残念ながら、塩崎恭久さんにはこの統治能力というものが、受動喫煙の法案化プロセスにおいて全く感じられなかったのは私だけでしょうか。

受動喫煙禁止推進派全般から統治能力が感じられない。

統治能力が欠けていると感じられるのは、塩崎前厚生労働大臣だけではありません。はっきり言えば、妥協なき受動喫煙の法案化にエールを送っていた人々全般について言えることだと思います。私の言う統治能力とは、多様な意見、生活習慣、経済基盤を持つ人々からなる社会において、自らが中心となって利害の妥協点を見出し、社会をまとめ上げ、理想に向けて一歩一歩着実に前進させることのできる能力を言います。だいたい妥協なき推進派は、統治能力のある法案反対派の麻生財務大臣に水面下で説明、陳情するのではなくて、統治能力のない塩崎厚生労働大臣だけに陳情するという点で、統治能力に必要な政治的なセンスがゼロですし、議論のスタートならまだしも、法案化の最終局面まで100なのかゼロのようなことを声高に主張したり、それにエールを送ったり、妥協点を見出そうとする努力に対し、骨抜きなど叫んでいるのは、統治能力が欠けているといわざるを得ないのです。

産経を除いた全国紙(読売、朝日、毎日、日経)、リベラルを自称するほとんどの地方紙、多くの医療団体、NPO団体、公衆衛生ムラの学者風情の面々には、例えば自動車修理工場のきつい仕事の合間の休憩時間にタバコを吸う人々の姿は見えていたのでしょうか。機械部品の組み立て工場で働く人々が、工場近くの中華料理屋さんで、タバコを吸いながら備え付けのテレビで昼のニュースを見る。また、中華料理屋さんもそういった人々がお客になって生計を立てている。そういったことを想像できているのでしょうか。そして、これが最も肝心なことなのですが、こうした人々抜きにしてこの日本社会は決して成り立たないという現実を理解しているのでしょうか。日本は、上澄みの人々によってのみ支えられているのでは決してないのです。社会における多くの指導者群は、多様な人々の意見を汲み取り、法律には当然例外を設け、多くの人々がのめる妥協点を見いだせないのならば、それは社会への想像力、統治能力を欠いているということなのです。受動喫煙推進派であっても、山東昭子さんには統治能力があり、塩崎前厚生労働大臣には統治能力はありませんでした。茂木、田村、渡嘉敷さんといった自民党政務調査会で法案化に向けて汗を流した方々に対し、謝辞を送ろうと思います。本当にお疲れさまでした。

戦いの場は東京都議会へ

さて、塩崎さんの内閣からの退場により、国政での決着は安倍さんの漸進主義に基づく現実的、かつ緩やかな自民党案に軍配が上がりました。妥協なき受動喫煙推進派は国政からはいったん撤退し、戦いの場を東京都議会に移しはじめました。現実路線の自民党と違って、こちらの多数派は急進改革派の都民ファーストの会がいます。条例化によって、より厳しい受動喫煙防止を図ろうしています。 

小池百合子東京都知事が率いる地域政党都民ファーストの会」は3日、子どもの受動喫煙を防ぐための条例案を9月開会の都議会に提出する方針を明らかにした。子どもがいる自宅や自家用車の中、通学路などでの禁煙について、罰則規定を設けず、努力義務を課す案を検討中だという。
  同会は7月の都議選の公約で受動喫煙対策を掲げ、飲食店などの屋内を原則禁煙とすることや、子どもがいる自宅や自家用車内での喫煙制限を条例で定めるとした。このうち、まず子どもに関する部分を条例案として出す方向で、内容を詰めているという。(2017.8.4 朝日新聞デジタル) 

まあ、罰則規定のない努力義務だから、何かが変わるということにはならないのでしょうが、一般家庭内の生活習慣にまで行政がああだこうだと介入する条例というのは、自由な日本社会を愉しむ私などからすると非常に抵抗感があり、受け入れがたいところです。政治権力がその権力行使や強制力の範囲を一般市民の生活習慣にまで伸長している、しかもその速度が急激であるという点で非常に危険な兆候です。こうした多数による専制の兆候にこそ、「立憲主義」という言葉をぶつけて対抗し、急激な振れ幅を緩めて社会の分断を防ぎ、社会の安定を保つという統治能力を発揮する必要があるのですが、安保法案にあれだけ反対した方多くのリベラル勢力が、都民ファーストの会の掲げる急進的な受動喫煙防止の公約に賛成しているという現状を見ると、香山リカさんのごとく、決してやってはいけない病理診断を言い渡したくもなるのです。

それはさておき、都議会選挙後にさっと身を引いた小池都知事は別として、この受動喫煙防止条例に関する議論の推移は、都民ファーストの会が、果たして統治能力があるのかないのかを示すリトマス試験紙となると思われます。政治手法として、強制力のない努力義務にとどめた一般家庭から入っていたことは、現実的であり評価できるところです。ただ、これをいわゆる妥協なき受動喫煙推進派たちの声に押されて、条例を飲食店への規制まで安易に拡大していった場合は、都民ファーストの会は、統治能力が欠けているということになるでしょう。できないことをできると公約し、外交のような相手のあることに対して安易に解決できるといい、国民に統治能力がないと判断され民主党政権のように・・・。

 最後に、受動喫煙対策における共産党の考えを示しておきます。 キャリコネニュースが大変参考となるインタビューをしていますので紹介いたします。

共産党も原則、屋内禁煙を掲げる。広報担当者は、キャリコネニュースの取材に対して次のように答えた。

「不特定多数の人が出入りする場所は、飲食店も含めて全て屋内禁煙にします。何平米以下は規制の対象から外すといったことはしません。規制を実効性のあるものにするためにも罰則を設ける予定です。罰則の中身については今後、検討していきます」(2017.6.26 キャリコネニュース)

都民ファーストの会の主張は、日本共産党とほとんど同一。受動喫煙対策について小池知事及び都民ファーストの会が都議会運営を猪突猛進に突き進んだ場合、その結果に不安がよぎるのは私だけでしょうか。